悟りは自我から無我への相転移

悟りは自我から無我への相転移。悟りを哲学、心理学、宗教、脳科学から解説します。

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-9-2)ロジャースのカウンセリング理論

9-9-2)ロジャースのカウンセリング理論 カウンセリングの実践方法を説明しましたが、ここではあらためてロジャースの「理論」を説明します。 ロジャースは「自己一致」という。それは、自分はこういう人間だという「頭で描いた自己概念」(意識的自己、理想的自己、…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-9-1)カウンセリングとは

9-9-1)カウンセリングとは 西欧で生まれた、心理的成長を促す方法としてカウンセリングがあります。ここではロジャースによって創始された「クライエント中心療法(来談者中心療法)」を中心に、カウンセリングを説明します。 先ずはカウンセリングの目的・目標か…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-8-2)環境と認知能力

9-8-2)環境と認知能力 生物発生原則に従って、生命は、その「認知能力」(情報収集処理加工能力)を長い年月をかけて進化(成長)させて来ました。人間(自我、意識、認知主体)は認知能力の幅広さにおいてその頂点にいます。パンだけで生きる動物から、人は神の言葉…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-8-1)環境と「アフォーダンス」

9-8-1)環境と「アフォーダンス」 アメリカの心理学者ジェームズ・ジェローム・ギブソンは、認知心理学の学説として「アフォーダンス理論」を提唱しました。「情報は環境に存在し、人や動物はそこから意味や価値を見い出す」という。 アフォーダンス(情報[意味、価値]…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-7)無分別智と仁

9-7)無分別智と仁 主体と客体を一つのもの(全体をあるがまま)として体験する純粋経験を、「他者のことを我がこととして捉える」視座として、人の心(脳)に、「共感」機能が備わって(内在して)います。具体的には、神経基盤として、下前頭回(前頭葉)の「ミラーニュ…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-6)梵我一如の西田の「統一力」

9-6)梵我一如の西田の「統一力」 この章の「9-4-1)「純粋経験」とは」で、西田幾多郎の「善の研究」に出て来る「純粋経験」を取り上げましたが、ここでは同じく西田の「善の研究」に登場する「統一力」を取り上げます。私にとって、西田の「統一力」は、「なるほど、そういう…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-5)弁証法とは

9-5)弁証法とは 茂木健一郎の「メタ認知的ホムンクルス論」では、「心(自己意識)は、脳内の各神経細胞や神経ネットワークの活動を俯瞰的な位置から見渡す機能(メタ認知的ホムンクルス)があり、主体(メタ認知)と客体(認知内容)に自己分裂させ、脳全体の変化を内…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-4-2)西田の自覚とは

9-4-2)西田の自覚とは 西田は分化(分裂)から自覚(統合)を通して、より高い階層に止揚するといいます。純粋経験(全体経験)から思惟や反省(メタ認知)へと分裂(細分化)したものを再度自覚(統合)という行為によって止揚(一段高い階層へと上昇)します。これはこの…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-4-1)「純粋経験」とは

9-4-1)「純粋経験」とは 「西田幾多郎」の「善の研究」に「純粋経験」という言葉が登場します。「6)無我」章の「6-2-1-7)王陽明の知行合一」節で、ある程度説明しましたが、純粋経験(一瞬の悟り)とは、「主客未分の意識状態での経験」(父母未生以前の本来の面目)を表し、そ…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-3)意識化とは統合

9-3)意識化とは統合 次で述べる哲学者西田のいう自覚は、心理学的には意識化です。心理学は心を意識と無意識に分けることが多いです。意識化とは、無自覚な無意識層で行われる反射行動に言語などという仲介物(間接化)をはさむことによって、意識的(選択可能…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-2-2-2)抑圧から統合へ

9-2-2-2)抑圧から統合へ それに対して、心理学での用語である「抑圧」は、自我(意識)の手の届かない無意識に閉じ込める(圧し込める)ことです。抑圧は水平(上下)の壁(蓋)です。いずれにしても、ある一定の体験の記憶とそれを元にした思考が、通常の意識から切り…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-2-2-1)解離から統合へ

9-2-2-1)解離から統合へ 解離(切り離し)は特に小さな解離は日常茶飯事として起こります。具体的には実際に痛みを感じなくなったり、苦痛を受けた記憶そのものが無くなる(乖離)ことがあります。あまりの苦痛によって精神が壊れてしまわないようにと防御するた…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-2-1)「解離」とは

9-2-1)「解離」とは マズローの欲求段階説は、階層構造という面で取り上げましたが、自我は、通常自分の存在を「つながったひとまとまり」(統一体、自我同一性)として認識しています。心に関しても、過去から現在までの記憶が途切れなく続いていると感じ、そのこ…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-1)アブラハム・マズローの欲求段階説

9-1)アブラハム・マズローの欲求段階説 成長は、統合(統一)が増すことでもありますが、階層が増すことでもあります。その代表的な理論が、アブラハム・マズローの欲求段階説です。これは、きわめて大まかな意味で生物の系統発生をたどっている個体発生ともいえ…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-0-2-2)意識と無意識

9-0-2-2)意識と無意識 意識と無意識の割合は、意識領域=10%~5%で、無意識領域=90~95%だといわれます。その意識領域を無意識領域へと広げて行くのが成長です。あるいは逆に無意識領域(の情報)を意識領域に取り込んで行くのが成長です。つまり戦国時代…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-0-2-1)成長と悟りの関係は

9-0-2-1)成長と悟りの関係は 上でも述べましたが、あらためて成長と悟りにはどのような繋がりがあるのでしょうか。自我(意識)(自己の統合拠点)が誕生して、その後自我という狭い通路を通して入って来た情報がどんどんと貯まって容器(意識・脳)を一杯に満たし…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-0-1)宇宙原理的成長

9-0-1)宇宙原理的成長 「4)「脳」と「前頭前野」」章の「4-3-1)心の成長=脳の成熟」節で、「生物発生原則」を紹介しました。受精卵が成体の形になる過程を個体発生といい、地球上に最初に誕生した単純な生物から多種多様な形が生まれてきたその変化の過程を系統発生と…

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-0-0)成長とは

9-0-0)成長とは 今まで悟りについて述べて来ましたが、悟りは目的地(ゴール)ではありません。仏教は悟りへと至る修行(方法)を提示してくれますが、別の章でも述べましたが、悟り現象は仏教固有の現象ではありません。私は、悟りへの道は人一般の成長過程と同…

8)悟りと漸悟 8-2-4)認知様式

8-2-4)認知様式 前頭前野の働きが強くなって感情(扁桃体)が安定することによって、欲求不満の状況でもそれを受容(冷静な受け止め)するとともに、適切冷静に処理し、安定した精神状態を保つことができるようになります。 初期段階は、意識の働きが広くないの…

8)悟りと漸悟 8-2-3-2)扁桃体と前頭前野との関係

8-2-3-2)扁桃体と前頭前野との関係 扁桃体は最初は単なる感情の座(中枢)だけでしたが、経験を経るにつれて感情だけではなくどんどん事業拡大して行きます。 初期段階では、ごく普通にポジティブな(楽観的)感情からネガティブな(悲観的)感情まで全てを感じま…

8)悟りと漸悟 8-2-3-1)扁桃体の感情表現の変化

8-2-3-1)扁桃体の感情表現の変化 ここは感情(扁桃体)についてですが、感情の処理経路が、1)粗いが処理の速い経路と、2)詳細だが処理は遅い情報処理を行う経路があります。 1)経路は、大脳皮質を経由しないで直接脳幹や視床から「扁桃体」へと入ってそこが無意…

8)悟りと漸悟 8-2-2-3)弓道におけるゾーン体験

8-2-2-3)弓道におけるゾーン体験 ゾーン(フロー)は、「精神的に適度にリラックス」してしかも「肉体的にも適度にリラックス」し、更には「現在に集中」している心理状態にあります。その具体例を、ドイツの哲学者オイゲン・ヘリゲルが日本で弓道を学んだ修行の書「弓…

8)悟りと漸悟 8-2-2-2)「ゾーン」に入る

8-2-2-2)「ゾーン」に入る 最終段階では、ほぼ完全に今に没入します。即今此処自己です。「今への完全没入」を意味する「ゾーンに入る」という表現をよく耳にします。「ゾーン」とは、集中力が非常に高まり、不必要な周りの景色や音などが意識の外に排除され、その結…

8)悟りと漸悟 8-2-2-1)雑念の減少と集中力の増大

8-2-2-1)雑念の減少と集中力の増大 雑念(執着、煩悩、そして自我)が減少したことで、つまり気を散らす原因が減少することで、重要な思考に持続的に強く深く集中でき、その結果目の前にある問題への解決能力が増強増大します。雑念が減少していくので、過去(…

8)悟りと漸悟 8-2-1-3)自我消滅か自我肥大か

8-2-1-3)自我消滅か自我肥大か 臨済は、修行中に「瞑想により仏陀や如来が現れたときは槍で突き刺せ」「仏見たなら仏を殺せ」と教えています。明晰夢状態での出来事ではないかと思います。瞑想中に神格を持つものとの一体感を持った結果、消滅させるべき自我を逆…

8)悟りと漸悟 8-2-1-2)自我を越え出る感覚(自我意識)

8-2-1-2)自我を越え出る感覚(自我意識) 悟りに近づくにつれて、仏教を信じる人々は、自分という感覚(意識)が広い空間いっぱいに拡大したと感じます。あるいは空間に漂い出す感覚を覚えます。科学の世界で、電磁気で脳の右側頭頂葉の「角回」を刺激すると、被験…

8)悟りと漸悟 8-2-1-1)自我感覚(自我意識)の変化

8)悟りと漸悟 8-2-1-1)自我感覚(自我意識)の変化あらためて自我意識とは何でしょうか。「意志、知覚、思考、記憶、感情、決断、行為など」を「自己同一的な主体」として遂行し、これらを「他者や外界から区別して自分自身のものだと意識」する態度です。私は、自我…

8)悟りと漸悟 8-2-0-1)漸悟への過程の概略

8-2-0-1)漸悟への過程の概略 先ずは漸悟への過程の概要だけを述べますと、 1)自我は、自分と関係あるものと無関係なものを区別し、関係するものに強い執着(関心)を示します。強い強固な狭い「自我」「自我意識」という感覚(壁)が徐々に薄れて行きます。一言で言…

8)悟りと漸悟 8-2-0-0)漸悟への過程

8-2-0-0)漸悟への過程 ここからは漸悟、時間をかけてじっくりと修行(瞑想、坐禅など)をして悟りに近づくにつれてのいくつかの相で現れる変化を見て行きます。というのは、頓悟は仏教修行に専念する者でないと困難ではないかと感じるからです。それに対して漸…

8)悟りと漸悟 8-1-3)キリスト教神学者エックハルト

8-1-3)キリスト教神学者エックハルト マイスター・エックハルトは、中世ドイツのキリスト教神学者で神秘主義者です。キリスト教神秘主義の源泉は、パウロやヨハネのキリスト体験です。パウロの場合は、イエスの死を死んだ後にイエスの生を生きるという体験で…