悟りは自我から無我への相転移

悟りは自我から無我への相転移。悟りを哲学、心理学、宗教、脳科学から解説します。

8)悟りと漸悟 8-2-2-2)「ゾーン」に入る

8-2-2-2)「ゾーン」に入る

最終段階では、ほぼ完全に今に没入します。即今此処自己です。「今への完全没入」を意味する「ゾーンに入る」という表現をよく耳にします。「ゾーン」とは、集中力が非常に高まり、不必要な周りの景色や音などが意識の外に排除され、その結果自分の感覚だけが研ぎ澄まされ、活動に没頭できる意識状態」を指します。後で紹介する「弓と禅」の「それが射る」意識状態です。

その時脳内で「ドーパミン」や「アドレナリン」などの意欲を増大させる快楽物質が分泌され、いやがうえにも脳のパフォーマンスが高まっている状態です。両方のホルモン物質はともに交感神経が優位の時に分泌され、脳や体を興奮状態にします。というとどちらかといえば、運動系の競技に適した心身状態です。ゾーンの代わりに、「フロー」、「無我の境地」、「忘却状態」という表現も使われます。こちらは読書や思索など頭脳系でも通用します。

この状態は、個人だけでなく、チーム全員でも起こり得ます。その場合には、チームフローと呼び、それはチームのメンバー相互が協調してゾーンに入って、通常の限界を超えて調和の取れた極めて高いパフォーマンスを発揮して一緒に課題を達成するときに経験します。チームフロー状態では中側頭葉でベータ波とガンマ波が増加し、チームメイトの脳活動がより強く同期(共感)しています。

注)ベータ波の内でも速さが比較的穏やかなローベータ波(15~18H)は、アドレナリンが分泌され能動的で活発な思考(言語や論理)や集中を示します。後で紹介する弓道ではよりリラックスし覚醒度が下がったハイアルファ波が最適です。ガンマ波は高次精神活動を示します。より具体的にいうと、感覚情報処理や認知・注意・記憶といった認知機能を働かせている時に増大します。具体的にはガンマ波は、脳内の違った領域間で情報の統合が行われていることを表します。