悟りは自我から無我への相転移

悟りは自我から無我への相転移。悟りを哲学、心理学、宗教、脳科学から解説します。

8)悟りと漸悟 8-2-2-3)弓道におけるゾーン体験

8-2-2-3)弓道におけるゾーン体験

ゾーン(フロー)は、「精神的に適度にリラックス」してしかも「肉体的にも適度にリラックス」し、更には「現在に集中」している心理状態にあります。その具体例を、ドイツの哲学者オイゲン・ヘリゲルが日本で弓道を学んだ修行の書「弓と禅」から抜粋引用します。

「(師範)「意図なく引き絞った状態の外は、もはや何もあなたに残らないほど、あなた自身から離脱して、決定的にあなた自身とあなたのもの一切を捨て去ることによってです」。「精神を集中して、自分をまず外から内へ向け、その内をも次第に視野から失うことを習いなさい」。サッカーのような動のスポーツもあれば、弓道のような静のスポーツもあります。静のスポーツは精神の制止(内向性)が重要となります。もはや坐禅や瞑想に近いでしょう。

(弟子)「呼吸への集中が内的に度が強くなればなるほど、外の刺激が色あせてくる。刺激は沈下してもうろうとしたざわめきとなるが、これは最初はぼんやりと聞こえる程度であり、最後にはもはや邪魔に感じられない」。

(弟子)「時が経つにつれて相当に強い刺激に対してすら無感覚となり、同時に刺激から独立した状態が次第に容易にまた急速に現れてくる」。

(師範)「準備をするときの瞑想的な静寂のお陰で、あの決定的な、彼のすべての力をすっかり抜いた状態、その力の釣り合いのとれた状態、あの集中と精神現在を得る」。「自我の代わりに”それ”が入って来て、自我が意識的な努力で自己のものとした能力や技量を駆使する」。「完全に自我を離脱して、我が射るのではなくて、”それ”が射るという絶対無の立場に徹したとき、初めて弓道の奥義を極めることができる」と。