悟りは自我から無我への相転移

悟りは自我から無我への相転移。悟りを哲学、心理学、宗教、脳科学から解説します。

8)悟りと漸悟 8-2-1-1)自我感覚(自我意識)の変化

8)悟りと漸悟

8-2-1-1)自我感覚(自我意識)の変化
あらためて自我意識とは何でしょうか。「意志、知覚、思考、記憶、感情、決断、行為など」を「自己同一的な主体」として遂行し、これらを「他者や外界から区別して自分自身のものだと意識」する態度です。私は、自我意識(自我感覚)の出処(源・中枢)は、島皮質だと感じます。島皮質については、「2)「自我」と「島皮質」」章の「1-4-0)情報集積基地の島皮質と自己意識」節以降で説明しました。
既に前の「7)仏性と修行」章の「7-5-3)意識とオートポイエーシス理論」節で取り上げたのですが、自我意識について興味深いシステム論をあらためて紹介します。それが「オートポイエーシス」です。オートポイエーシスは、システムの構造面ではなく、「作動」(機能、働き)を中心にして組み立てたシステム論です。
「システムは作動することによって自らの境界を区切り、作動することによってみずから存在する。システムはみずからの作動そのものによって、内部と外部を区分するのであって、システムの作動に先立っては内部も外部も存在しない」という。
というここで、自我意識をオートポイエーシスのシステム論から眺めると、自我(意識)と無我の関係が見えて来そうに思えます。つまり自我意識は固定的な構造を持っているわけではなく、ただ機能(働き)は、身体が作動(スイッチ・オン)している間だけ立ち現れる機能です。身体の働き次第で、瞬時に無我となります。
「3)意識」の「3-2-2)統合情報理論」で、「統合情報理論」を紹介しましたが、統合情報理論も意識を機能と見なしています。勿論その機能を成立させる構造はありますが。しかしオートポイエーシスは、その構造を見るのではなく、それが作動することで生まれる機能を見ます。構造のその構成要素が生まれ出た機能の存在範囲を決定づけます。同じように統合情報理論も情報という脳の構成要素が意識を生み出すという。更には情報の統合度が上がれば上がるほど意識は強くなるという。
これを自我に当てはめてみます。幼時期の自分だけに向けられていた関心(社会性)が、成長するにつれて家族・友達・異性・趣味・学業・思想・仕事へと広がり積極的に参加するようになります。この関心(社会性)の高まりと広がりも統合情報理論とオートポイエーシス理論を使うと説明がしやすくなります。
注)余談ですが、電気的現象・磁気的現象である磁場・磁界は、電流が作り出す物理現象です。これもオートポイエーシスのシステム論で説明できそうに思えます。