悟りは自我から無我への相転移

悟りは自我から無我への相転移。悟りを哲学、心理学、宗教、脳科学から解説します。

3)「意識」と「その三つの理論」 3-2-2)統合情報理論

3)「意識」と「その三つの理論」

3-2-2)統合情報理論

「意識の本質的な性質は1)情報と2)統合であると見なす」。「脳が意識を持つためには、神経細胞同士が密に情報をやりとりし、更にネットワーク内部で多様な情報が統合されている必要があります」。「ネットワーク内部で統合された情報の量は、統合情報量として定量化され、その量は意識の量に対応している」と、統合情報理論はいう。

例えば、意識が生み出されていない、昏睡・植物状態・深い睡眠・全身麻酔状態でも、部分的ながらも脳活動は失われず、かつ外部からの感覚入力にも反応できる脳であるにも関わらず、意識が宿らないのは、情報の統合が失われるからだというのが統合情報理論です。イタリア出身のアメリカ合衆国在住のジュリオ・トノーニが、2004年この統合情報理論を提唱しました。

意識の統合情報理論では、脳は、感覚神経系と認知過程とにより複雑な情報をつなぎ合わせて(統合して)いると考え、「統合された情報の量を定量化して、その量が多いほど意識の量が多い」とします。

彼の理論から推測すると、意識は高かったり低かったり、強かったり弱かったり広かったり狭かったりするといえそうです。個人の中の意識値は一定ではありません。意識値は、幼児期に目覚めた自我(エピソード記憶)の成長発達に伴って増加し、逆に高齢期に認知障害の発症に伴って減少します。睡眠中にも意識値は上下に変動し、夢見中は大きくなり、夢を見ていない眠りの深い状態(ノンレム睡眠中)では小さくなります。

注)深いノンレム睡眠に移行すると、脳は休息状態になっていますが、全身の筋肉の緊張は保たれています。そのため、寝返りをうつなどをして疲労が溜まっている部位の回復をしています。つまりノンレム睡眠では、脳の高次中次機能(大脳新皮質と大脳辺縁系)は休息していますが、低次(脳幹とそれよりも下位の感覚器官と運動器官)は反応します。

具体的には意識の有無の尺度を示す「摂動複雑性指数:PCI」は、0.31という閾値だそうです。PCIを測定するための大掛かりなTMS脳波装置も既に開発されています。

例えば完全に意識がないと考えられていた43人のうち、閾値を上回った患者が9人もいました。その内6人は、かろうじて意識があると分類される状態まで改善したそうです。

この統合情報理論は、意識の受動性・能動性に関しては何も述べていません。また意識の強弱を知ることができますが、つまり意識の量は分かっても意識の質については述べていません。

ただ例えば右脳と左脳それぞれに独立して意識が宿り得るが、同時に意識が独立して両立することはありません。というのは統合情報量が最大になる部分系(コンプレックス)のみが意識を生み出し得る、あるいは意識を勝ち取れるからです。