悟りは自我から無我への相転移

悟りは自我から無我への相転移。悟りを哲学、心理学、宗教、脳科学から解説します。

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-5)弁証法とは

9-5)弁証法とは

茂木健一郎の「メタ認知的ホムンクルス論」では、「心(自己意識)は、脳内の各神経細胞や神経ネットワークの活動を俯瞰的な位置から見渡す機能(メタ認知的ホムンクルス)があり、主体(メタ認知)と客体(認知内容)に自己分裂させ、脳全体の変化を内部観察する」という。つまり自我(自己)意識は、メタ認知機能であるという。これは西田の「純粋経験」論に酷似しているように思えます。

西田の純粋経験論や茂木健一郎の「メタ認知的ホムンクルス論」は、弁証法だと感じます。というよりも、弁証法は、ものの変化・発展方式を一般化・理論化したものです。弁証法(特にヘーゲルによって定式化されたヘーゲル弁証法)とは、正反対(矛盾する)のもの、例えば、自然と人工、主観と客観、主体と客体、現実と意識、実践と理論などの対立を調停して、別のあり方の可能性をもたらすことです。西田は、上で述べたように、その弁証法を心(人格)の成長に適用していう。自覚とは、主観(知られる客体:認知内容)と客観(知る主体:メタ認知)を止揚(自覚)することだという。

弁証法は、世界や事物の「変化や発展の過程」を本質的に理解するための方法、法則という。宇宙全体を覆い尽くす宇宙原理を定式化した理論です。発展・成長・変化するものには、他と成りつつも同時に同一を保つという対立の統一が含まれているという。西田はそれを矛盾的自己同一という。

例えば、水(H2O)という統一体には、水素(H)と酸素(O)という異なる要素(原子・元素)で成り立ちます。宇宙はそのような様々な要素が「結合したり分解したり」で発展・成長・変化します。結合とは階層が上がることであり、分解とは階層が下がることです。極端に言えば、視点が上下しています。

中国の「陰陽」は、陽と陰とは互いに対立する属性を持った二つの気であり、万物の生成消滅と言った変化はこの二気によって起こるという。西田は、それを「矛盾的自己同一」という。論理学では、「二項対立」は互いに排他的だが全体のシステムを形成しているという。個(分解)から見るか全体(統合)から見るか。