悟りは自我から無我への相転移

悟りは自我から無我への相転移。悟りを哲学、心理学、宗教、脳科学から解説します。

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-2-1)「解離」とは

9-2-1)「解離」とは

マズローの欲求段階説は、階層構造という面で取り上げましたが、自我は、通常自分の存在を「つながったひとまとまり」(統一体、自我同一性)として認識しています。心に関しても、過去から現在までの記憶が途切れなく続いていると感じ、そのことによって「自分がどういう人間であるか」というイメージ(人格)を持つことができます。自分の身体に関しても、通常自分のものであることを実感できます。このように自然界では、自己組織化が発生します。自己組織化とは、あるランダムな状態にある構成要素が、構成要素間に働く相互作用により自発的に特定の秩序構造を形成する現象をいう。これが心の内部でも起こります。

その自我同一性に対して、「解離」とは、意識や記憶などに関する感覚をまとめる能力が一時的に失われた状態で、意識、記憶、思考、感情、知覚、行動、身体イメージなどが分断されて感じられます。

より具体的には自分が自己(記憶、知覚、自己同一性、思考、感情、身体、行動などの総体)から切り離されて(解離して)いるように感じます。あるいは逆に自分が周囲の世界から切り離されて(遊離して)いるように感じることもあります。そのため、自己同一性(アイデンティティ)の感覚、記憶、意識などが断片化しています。自分が切り離しているものの大きさによって感じ方も異なります。大きさによって自分が切り離しているのか、自分が切り離されているのかが変わります。

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-1)アブラハム・マズローの欲求段階説

9-1)アブラハム・マズローの欲求段階説

成長は、統合(統一)が増すことでもありますが、階層が増すことでもあります。その代表的な理論が、アブラハム・マズローの欲求段階説です。これは、きわめて大まかな意味で生物の系統発生をたどっている個体発生ともいえます。「4)脳と前頭前野」章の「4-3-1)心の成長=脳の成熟」節で述べましたが、「生物発生原則」をたどっているといえます。宇宙では宇宙原理に基づいて自発自展するので、個々人の身体も心も脳もごく大まかな成長過程は似通っています。

ではマズローの自己実現理論(欲求階層説、欲求段階説)を簡単に説明しますと、人は順調に成長して行く過程では、衣食住という基本的な欲求「生理的欲求」が満たされれば「安全欲求」へと階層を上昇し、それが満たされれば、更には人から好かれたいという「社会的欲求」へと次の階層へと上昇し、その後自分を尊重して欲しいという尊厳欲求(承認欲求)へ、更には次の自分の可能性を最大限に発揮したいという「自己実現欲求」へと登っていきます。まあしかし人生を各の如くに順調に各階層を登って行く人は稀ですが。

マズローは、その自己実現欲求の更に上に「高原経験」(自己超越)をのせました。自我を超越するというこの段階に至って、欠乏感から解放されます。禅では、この意識状態を力強い円(円相)で表現します。(一)円相とは、悟りや真理、仏性、宇宙全体などを円形で象徴的に表現したものです。円相は、欠乏感から解放され一応の自己の統合(統一)の完成を表します、月や地球が円相である如く。

マズローの話に戻ると、自己超越とは、自己意識(自我)の超越です。自分という意識が消える感覚であり、無我(の境地)ともいえます。マズローの欲求段階説では、6段階の階層を登って最高地点に立つことによって悟りを得ることができます。

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-0-2-2)意識と無意識

9-0-2-2)意識と無意識

意識と無意識の割合は、意識領域=10%~5%で、無意識領域=90~95%だといわれます。その意識領域を無意識領域へと広げて行くのが成長です。あるいは逆に無意識領域(の情報)を意識領域に取り込んで行くのが成長です。つまり戦国時代の天下統一を成し遂げるのが成長です。悟りの場合には、その領域を拡げて行く方法として、坐禅や瞑想があります。

この意識(自我)=無意識(無我)の時点(悟りが開かれた時点)から無意識(=意識)によって純粋経験を元として生きます。それまでは自我によってその一部分だけをかじりとって消化吸収していました。であっても、無意識(無我)によって純粋経験を元に生きる場合も、完成(完全消化吸収)にはほど遠い状態です。ただあるがままに自然法爾に受け取れるようにはなりますが。

能動性意識が主導権を取って生きている状態が自我で、無意識(無我)が主導権を取って生きている状態が悟り状態です。より厳密にいえば、悟りとは、自我という自己(心身)を拠り所とする自我拠点(自己意識)の喪失(心身脱落)が悟りです。この場合には、意識が無意識全体を覆い尽くす必要はありません。この悟り型は頓悟です。

あらためて元の成長へと話を戻すと、成長とは、1)「統一が増す」こと、2)「階層が増す」「階層を上昇する」(階層が高くなる)ことです。この成長原理は、宇宙全体でも通用します。というよりも、宇宙全体の成長原理だから、人間(心身両面)の成長にもそれが当てはまります。

ここではその内で心(精神)(意識)の成長だけを扱います。成長については、心理学が、宗教が、哲学が述べていますので、その声を聞いてみましょう。

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-0-2-1)成長と悟りの関係は

9-0-2-1)成長と悟りの関係は

上でも述べましたが、あらためて成長と悟りにはどのような繋がりがあるのでしょうか。自我(意識)(自己の統合拠点)が誕生して、その後自我という狭い通路を通して入って来た情報がどんどんと貯まって容器(意識・脳)を一杯に満たした時点が悟りです。

では自我に情報が一杯あればそれだけで悟れるかといえば、否です。その根拠は、統合情報理論にあります。神経回路(神経ネットワーク)が脳内に張り巡られれて、脳が一つの完全統一体(システム的な統一体系)に組織化されていなければならないのです。自我(意識)の元に様々な神経ネットワークが一つの脳内一大ネットワーク網として統合された体系でなければならないのです。言い換えると、脳内の全ての情報が一大ネットワーク網の中に納まっていなければならないのです。別の言い方をすれば、この時点で意識(自我)と無意識は同じ大きさ広がりになります。自我を拠点とした意識内の情報量=無意識内の情報量となります。意識(自我)=無意識(無我)です。

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-0-1)宇宙原理的成長

9-0-1)宇宙原理的成長

「4)「脳」と「前頭前野」」章の「4-3-1)心の成長=脳の成熟」節で、「生物発生原則」を紹介しました。受精卵が成体の形になる過程を個体発生といい、地球上に最初に誕生した単純な生物から多種多様な形が生まれてきたその変化の過程を系統発生という。個々の生物は、生物一般が進化の過程をごく大まかにたどる形(系統発生)で成長(個体発生)して行きます。脳に関してもその原則は当てはまります。心=脳ですから、心の成長も生物発生原則に沿って行きます。

生命(生物)は、単細胞生物から開始しました。人脳においても同じように神経細胞をばらばらの形で開始しました。そして神経ネットワーク(神経回路)を形成して、それを更に複雑に絡み合わせて神経回路網を形成させていきます。空では、星をまとめて体系化して行きます。例えば、地球は太陽系に属し、太陽系は更に大きな(天の川)銀河系に属し、というように統合を階層構造的に重ねて行きます。

私達の脳においても、個々の神経細胞をネットワーク(回路)化を階層構造的に重ねることで、心=脳は成長して行きます。科学的に「脳内の全ての神経細胞が階層構造的に統合を終了」した時点が仏教における「悟り」です。

9)成長とそれを促進する理論・方法 9-0-0)成長とは

9-0-0)成長とは

今まで悟りについて述べて来ましたが、悟りは目的地(ゴール)ではありません。仏教は悟りへと至る修行(方法)を提示してくれますが、別の章でも述べましたが、悟り現象は仏教固有の現象ではありません。私は、悟りへの道は人一般の成長過程と同じだ感じます。つまり「悟りへの道=人の成長過程」として、仏教は心理学理論とその方法論だと感じるので、人の成長方法・理論をこの章で取り上げます。

私達は、悟る能力(仏性)を持っているが、人の人生の初期にわざわざ自我(意識)という、全体の内の一部分だけを受け取る「意識」を使って、人生をスタートさせて生きて行きます。何故なのでしょうか。自我は最初から無くてもいいのではないでしょうか。

それは、一から始めて「少しずつ成長する」のが「宇宙原理」だからです。宇宙のあらゆるものがそのようにして成長・進化して来ましたしこれからもそのようにして成長して行きます。

8)悟りと漸悟 8-2-4)認知様式

8-2-4)認知様式

前頭前野の働きが強くなって感情(扁桃体)が安定することによって、欲求不満の状況でもそれを受容(冷静な受け止め)するとともに、適切冷静に処理し、安定した精神状態を保つことができるようになります。

初期段階は、意識の働きが広くないので、認知過程を漠たる一つの反応として捉えて分析的に細分化して認識できません。中期以降の段階になると、認知過程の段階の一つ一つの反応を分析的に個別的に認識できます。つまり本能的、身体的、感情的、思考的な反応という各認知段階を上から順に個別的に認識できて、自分のこの反応がどの階層から来ているのかが分かります。その結果対処がしやすくなります。

そのように段階が進めば進むほど、意識の制御範囲が広がり、外部刺激(感覚情報)に対する自分の反応を自分で認識した上で自己制御できるようになります。

最終段階になれば、自動化が進み外部刺激に意識的に反応することがほとんどなくなるので、つまり反応そのものがなくなるので反応を制御する必要もなくなります。ただ単に外部刺激にただ受動的に気づく(受容する)という反応(不動智)になります。

不動智は、意識(範囲)がどんどん広がって、本能的、身体的、感情的、思考的な脳部位全体を見渡せるようになることで確立します。

8)悟りと漸悟 8-2-3-2)扁桃体と前頭前野との関係

8-2-3-2)扁桃体と前頭前野との関係

扁桃体は最初は単なる感情の座(中枢)だけでしたが、経験を経るにつれて感情だけではなくどんどん事業拡大して行きます。

初期段階では、ごく普通にポジティブな(楽観的)感情からネガティブな(悲観的)感情まで全てを感じます。ただし扁桃体のレベルが上がると、ただ感情を幾分知的に認識しても、心臓辺りに感情を感じるがその感情を引きずることは少ない、つまり頭にまで昇って来ません。それでも、一瞬イラっとして脊髄反射してしまうが、すぐに通常の平穏な心に戻ります。嫌な気持ちが生じた時にもメタ認知(前頭前野)(抑制制御機能も持つ)は働きます。今何だか嫌な気持ちを感じているなと、自分(メタ認知)が自分(感情機能)を上から観察している状況です。

段階が進むにつれて、感情を上(前頭前野)から制御する能力が強くなって冷静な状態が長く続くに従って、萎縮させるようなネガティブな感情は減少し、逆に意欲的な前向きにさせるようなポジティブな感情だけが残るようになります。より詳しく説明すると、腹側前帯状皮質と内側前頭前野(眼窩部)は、扁桃体の過剰な活動を制御抑止します。逆に、扁桃体は自分にとって好きなことや心地良いことだと判断すると、ドーパミンが放出され、前頭前野、側坐核、海馬、視床下部などの領域へ伝えられます。前頭前野は扁桃体に対してブレーキを踏んだりアクセスを踏んだり自在にできるようになります。

最終段階では、完全自動化されて一切の感情を感じなくなります。

感情と脳の構造との関係を説明します。大脳辺縁系の中の扁桃体が情動(感情)の発現に重要な役割を果しています。この扁桃体と密接な線維連絡(配線)のある視床下部やこの部位と線維連絡のある中脳中心灰白質も、情動の表出(表情など)と自律神経系の反応(心拍数、呼吸、血圧の変化)や行動面での反応(すくみ反応、逃避反応、攻撃反応など)を引き起こします。 その情動系を上位から制御するのが、大脳新皮質の前頭前野(特に前頭眼窩野)です。若い頃は扁桃体が強力で前頭前野が力負けすることも多々ありますが、前頭前野は使えば使うほど機能強化されていきます。

注)ヤコブレフ回路(大脳辺縁系で情動と記憶に関与する中枢)は、

前部側頭葉(側頭葉前部:側頭葉極:記憶)-扁桃体(感情)-視床背内側核(感覚情報)-前頭葉眼窩野(+帯状回)(抑制)-鉤状回ー前部側頭葉というサーキット(閉鎖回路)になっています。回路が閉じていなければ電流は流れませんが、閉鎖回路では電流が流れます。神経細胞に配線コードが接続されれば、神経回路(神経ネットワーク)が形成されます。そこを流れる電流は特定の脳部位から外部へ流れ出ます、あるいは流入します。

8)悟りと漸悟 8-2-3-1)扁桃体の感情表現の変化

8-2-3-1)扁桃体の感情表現の変化

ここは感情(扁桃体)についてですが、感情の処理経路が、1)粗いが処理の速い経路と、2)詳細だが処理は遅い情報処理を行う経路があります。

1)経路は、大脳皮質を経由しないで直接脳幹や視床から「扁桃体」へと入ってそこが無意識的情動判断をします。

それに対して2)経路は、視床から扁桃体を経由せずに直接「大脳新皮質(大脳新皮質前頭前野)」(思考)や海馬(過去の記憶庫)を経由して扁桃体へ入って理性的判断をします。

しかしそれだけではなく1)経路と2)経路の両経路の情報は最終的には扁桃体であらためて統合され修正されます。つまり情報更新されます。

扁桃体は、ネガティブな情動刺激にもポジティブな情動刺激にも反応します。腹側被蓋野(A10)から1)ドーパミン(快楽・報酬系)が、中脳背側縫線核と正中縫線核から2)セロトニン(整え系)が、青斑核から3)ノルアドレナリン(興奮系)が、マイネルト基底核から4)アセチルコリン(興味関心系)が扁桃体へ流入します。

具体的には、ドーパミンは、意欲、動機、学習などに重要な役割を担います。扁桃体に限らないのですが、セロトニンは、ド-パミンやノルアドレナリンなどを制御し、精神を安定させます。ノルアドレナリンは、集中力を高めたり、積極性なポジティブな行動を起こす反面、恐怖や怒り、不安などのネガティブな感情をも引き起こします。アセチルコリンが増すと、大脳新皮質脳波の速波成分(シータ波とガンマ波)が増えます。これは集中指標です。「シータ波とガンマ波の循環」はゾーン体験の有力な指標です。

扁桃体は、情動的な出来事に関連付けられる記憶の形成と貯蔵における役割を海馬とともに担っています。

8)悟りと漸悟 8-2-2-3)弓道におけるゾーン体験

8-2-2-3)弓道におけるゾーン体験

ゾーン(フロー)は、「精神的に適度にリラックス」してしかも「肉体的にも適度にリラックス」し、更には「現在に集中」している心理状態にあります。その具体例を、ドイツの哲学者オイゲン・ヘリゲルが日本で弓道を学んだ修行の書「弓と禅」から抜粋引用します。

「(師範)「意図なく引き絞った状態の外は、もはや何もあなたに残らないほど、あなた自身から離脱して、決定的にあなた自身とあなたのもの一切を捨て去ることによってです」。「精神を集中して、自分をまず外から内へ向け、その内をも次第に視野から失うことを習いなさい」。サッカーのような動のスポーツもあれば、弓道のような静のスポーツもあります。静のスポーツは精神の制止(内向性)が重要となります。もはや坐禅や瞑想に近いでしょう。

(弟子)「呼吸への集中が内的に度が強くなればなるほど、外の刺激が色あせてくる。刺激は沈下してもうろうとしたざわめきとなるが、これは最初はぼんやりと聞こえる程度であり、最後にはもはや邪魔に感じられない」。

(弟子)「時が経つにつれて相当に強い刺激に対してすら無感覚となり、同時に刺激から独立した状態が次第に容易にまた急速に現れてくる」。

(師範)「準備をするときの瞑想的な静寂のお陰で、あの決定的な、彼のすべての力をすっかり抜いた状態、その力の釣り合いのとれた状態、あの集中と精神現在を得る」。「自我の代わりに”それ”が入って来て、自我が意識的な努力で自己のものとした能力や技量を駆使する」。「完全に自我を離脱して、我が射るのではなくて、”それ”が射るという絶対無の立場に徹したとき、初めて弓道の奥義を極めることができる」と。

8)悟りと漸悟 8-2-2-2)「ゾーン」に入る

8-2-2-2)「ゾーン」に入る

最終段階では、ほぼ完全に今に没入します。即今此処自己です。「今への完全没入」を意味する「ゾーンに入る」という表現をよく耳にします。「ゾーン」とは、集中力が非常に高まり、不必要な周りの景色や音などが意識の外に排除され、その結果自分の感覚だけが研ぎ澄まされ、活動に没頭できる意識状態」を指します。後で紹介する「弓と禅」の「それが射る」意識状態です。

その時脳内で「ドーパミン」や「アドレナリン」などの意欲を増大させる快楽物質が分泌され、いやがうえにも脳のパフォーマンスが高まっている状態です。両方のホルモン物質はともに交感神経が優位の時に分泌され、脳や体を興奮状態にします。というとどちらかといえば、運動系の競技に適した心身状態です。ゾーンの代わりに、「フロー」、「無我の境地」、「忘却状態」という表現も使われます。こちらは読書や思索など頭脳系でも通用します。

この状態は、個人だけでなく、チーム全員でも起こり得ます。その場合には、チームフローと呼び、それはチームのメンバー相互が協調してゾーンに入って、通常の限界を超えて調和の取れた極めて高いパフォーマンスを発揮して一緒に課題を達成するときに経験します。チームフロー状態では中側頭葉でベータ波とガンマ波が増加し、チームメイトの脳活動がより強く同期(共感)しています。

注)ベータ波の内でも速さが比較的穏やかなローベータ波(15~18H)は、アドレナリンが分泌され能動的で活発な思考(言語や論理)や集中を示します。後で紹介する弓道ではよりリラックスし覚醒度が下がったハイアルファ波が最適です。ガンマ波は高次精神活動を示します。より具体的にいうと、感覚情報処理や認知・注意・記憶といった認知機能を働かせている時に増大します。具体的にはガンマ波は、脳内の違った領域間で情報の統合が行われていることを表します。

8)悟りと漸悟 8-2-2-1)雑念の減少と集中力の増大

8-2-2-1)雑念の減少と集中力の増大

雑念(執着、煩悩、そして自我)が減少したことで、つまり気を散らす原因が減少することで、重要な思考に持続的に強く深く集中でき、その結果目の前にある問題への解決能力が増強増大します。雑念が減少していくので、過去(の経験)を思い出したり、未来(将来)を思い悩んだりしなくなり、つまり過去や未来に煩わされなくなった結果、つまり時々の沸き立つ煩悩に振り回されずに、今目の前にある出来事(課題)に集中するようになります。最終的に「即今此処自己」(即今当処自己)となります。ごく普通に解釈すると、「今ここで私が(する)」と読みます。深読みする人は、「未来や過去にではなく「即今」、遠くにあるという浄土ではなくここ(此処)が既に浄土、私(自己)が今ここで仏として生きています」とも読みます。これは悟りです。

雑念がない分、つまり無駄な仔細な事柄に神経を浪費(分散)しないので、また全神経を一つのことに持続的集中(禅定)できるので、今ここの感覚が鋭く広くなり、五感(視覚、聴覚、嗅覚、皮膚感覚など)を総動員して、脳全体を使って今の目の前の出来事を深く味わおうとするようになります。一期一会です。

それを脳的に言えば、「能動的作業」への「集中」は、「中央実行ネットワーク(機能)」が受け持ちます。それは目の前の課題に能動的に集中して、認知と思考と行動面で取り組む脳内機能です。短期記憶関連脳領域(海馬や感覚機能)や、注意関連脳領域(前頭前野)から構成されています。この中央実行機能が強力に持続的に働いている状態を「ゾーン(フロー)に入る」(心身ともどものリラックスと集中のバランスが取れた覚醒領域)という。フロー体験中は、1)時間感覚の変容、2)意識の後追い(無意識主体)、3)自分の境界の曖昧さだそうです。

この集中に介入し中断させるのが雑念(顕著性ネットワーク、島皮質中心)です。