悟りは自我から無我への相転移

悟りは自我から無我への相転移。悟りを哲学、心理学、宗教、脳科学から解説します。

3)「意識」と「その三つの理論」 3-1-1)起きている「覚醒状態」

3-1-1)起きている「覚醒状態」

1)「視覚や聴覚などの感覚的刺激を感じ取ることが可能な状態」を、「覚醒」状態という。これよりも下がると睡眠状態といえます。

注)覚醒安静時(目を閉じて安静)=α(アルファ)波(周波数:8~13Hz、振幅30~60μV程度の比較的規則正しい波形)、活発な精神活動時=β波(周波数14~30Hz、振幅30μV以下の不規則な波形)。

正常な脳の場合には、必要に応じて活動レベルと意識レベルを素早く調節制御できます。感覚器官を刺激する方法で制御します。脳は、代謝活動を調整して、つまり覚醒(意識)水位を下げて睡眠を誘発します。逆に覚醒度を上げると、つまり注意や精神的清明さを高めると、アルファ波は消失または減衰します。安静時9~11 Hzのα波が後頭部優位に出現し、開眼、光や音刺激などで抑制されます。逆に覚醒度が低下すると後頭部のα波の連続性が乏しくなり、その周波数も遅くなり、振幅が低下します。

非集中(拡散)の状態がピークを迎えると、DMNにアルファ波が現れます。集中回路(中央実行機能)には、脳の注意を集中させるためにベータ波のほうが多く現れます。

この覚醒は、脳幹の網様体を含む「上行性網様体賦活系」(上行性覚醒系)構造体が、レベル1)の意識(覚醒意識)を生み出します。具体的には上行性網様体賦活系に含まれる「青斑核」は、覚醒に先行して発火頻度を増加し、発火頻度が高くなるとともに覚醒レベルは高くなります。つまり青斑核を興奮させると覚醒し、抑制すると意識レベルは低下します。このように、青斑核は覚醒状態の発現と維持に重要な役割を担っています。青斑核は、あるものに注意を向けたりすると興奮して、ノルアドレナリンという脳内物質を作り、脳全体(大脳、視床、海馬、小脳、脊髄など)に供給します。

この覚醒だけでは中身(感覚情報)を把握(認識・認知)できない、つまり中身(知覚情報)が空っぽの空き箱に過ぎません。とはいっても、感覚情報が脳(大脳新皮質)に達していないわけではなく、知覚や認知レベルには達していない、そのレベルの機能が作動していないということです。

注)上行性覚醒系は、1)「中脳橋被蓋」(モノアミンとアセチルコリン作動性ニューロン群)(脳幹)から生じる複数の上行性経路から構成され、「視床」および大脳新皮質に到達するまでのあいだに、2)「視床下部」(ヒスタミン、オレキシン、メラニン凝集ホルモン)や3)「前脳基底部」(アセチルコリン作動性ニューロン群)などの各レベルで付加的な入力が合流して増強されています。

1)中脳網様体は脳全体の活動水準を維持するにすぎず、上行性覚醒系の中軸をなすのは、3)前脳基底部とそこに興奮性の投射を送る青斑核および結合腕傍核内側部の神経集団です。

注)前障が意識のオン/オフに関与しているという報告もあります。